【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第33話
八月。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
台風後、密閉された緊急用品箱が漂着した。中には毛布、浄水用具、簡易ラジオ、衛生用品、栄養補助食が入っていた。誰かのための箱が、ふたりに届いた。 ラジオは雑音ばかりだったが、夜に一瞬だけ言葉らしい音が混じった。ひまりと奈緒は顔を見合わせる。世界は消えていない。ただ、とても遠いだけだった。
第33話 声を探す
毎日、決まった時間に丘でラジオを回した。周波数を書き留め、雑音の変化を比べる。電池を節約するため、探索は十五分だけ。
ある夕方、日本語の天気予報が断片的に聞こえた。地名までは分からない。それでも二人は拍手した。聞こえるということは、こちらの信号も届く可能性がある。
ラジオを長く回せば声へ近づける気がしたが、電池は増えない。二人は担当を交代し、聞こえた音を記号で記録した。同じ時刻、同じ場所で比べる。
天気予報らしい言葉が聞こえた夜、奈緒は音量を上げず、ひまりの肩を叩いた。二人は息を止めて最後まで聞く。地名は雑音に消えた。それでも翌日の風向きが放送と似ていて、遠い声が現実だったと分かった。
雑音の向こうで三つの音節が聞こえ、ひまりは鉛筆を止めた。奈緒にも同じように聞こえたか、先に答えを言わず紙へ書いてもらう。二人の文字は一つだけ一致した。地名かどうかは分からない。それでも偶然ではない音が、海の外に生活があることを連れてきた。
聞き取れなかった部分は、想像で文字を埋めなかった。空欄の長さも記録し、翌日同じ時刻に流れる音と重ねられるよう紙を取っておいた。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。
