【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第41話
十一月初め。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
奈緒が「今日は授業参観」と言い、貝殻を家族に見立てて並べた。ひまりは島の水循環について発表し、質問役の奈緒が何度も手を挙げる。 くだらなくて、二人は笑い続けた。家族に見せられない授業だからこそ、丁寧にやった。スマホで三分だけ撮影し、帰ったら本物の家族へ見せると決めた。
第41話 傷ついた鳥
嵐で羽を傷めた海鳥が浜にいた。ひまりは助けたかったが、奈緒は野生動物へ不用意に触れないよう止めた。距離を取り、近くの危険な漂着網だけを除く。
数日後、鳥は自分で海へ戻った。救うことは、必ずしも抱き上げることではない。見守り、邪魔を減らすことも助けなのだとひまりは学んだ。
鳥へ近づこうとしたひまりを、奈緒は声ではなく腕で制した。弱っているように見えても、くちばしや爪は危険だ。二人は風上へ回り、絡みそうな網だけを長い枝で遠ざけた。
翌日、鳥は少し離れた岩へ移っていた。三日目の朝、羽ばたきが海面を打ち、そのまま見えなくなった。ひまりは助けたとは言わなかった。ただ、飛び立つ邪魔をしなかったことを日記に書いた。
鳥が飛び去った岩には、灰色の羽が一本残っていた。ひまりは拾いかけてやめる。記念に持ち帰らなくても、羽ばたいた瞬間は覚えている。奈緒と網の切れ端だけを回収し、周囲に新しい危険がないか調べた。助けたという物語を作らず、起きたことだけを胸へ置いた。
鳥がいた場所へ魚の残りを置くことはしなかった。野生の餌を変えず、人の匂いも残さない。それが飛び立った後にできる最後の配慮だった。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。