この話はフィクションです。舞台となる町や施設、人物、出来事は創作です。実在する地域・団体・人物とは関係ありません。
第16話 地図にない細道
三人は水路図の最初の赤丸、住宅の間の抜け道を調べた。市販の地図にはないが、近所の人は駅への近道として使う。塀と生け垣に挟まれ、夕方は角の先に人がいても直前まで見えない。
悠斗が照度を測り、澪が通行人数と年齢を記録した。森戸さんは二十五年前の写真と現在を同じ位置から撮る。塀は高くなり、水路が塞がれたぶん、逃げ場のない細道へ変わっていた。
近所の女性は、自転車と子どもがぶつかりそうになったことが何度もあると話した。怖い噂は知らないが、日没後は遠回りする。噂が危険を作ったのではなく、危険が語られないまま習慣だけを変えていた。
角の壁には新しい黒い印が貼られていた。森戸さんの調査用シールだったが、彼が貼った位置とは違う。剥がすと裏に『見えないことを書く』と沙耶の筆跡らしい文字があった。
澪は報告欄へ、『暗いから怖い』ではなく、『角の向こうを三メートル手前から確認できない』と書いた。悠斗はカーブミラーと低い照明の設置案を添える。感覚が、改善できる言葉へ変わった。
抜け道を出た瞬間、背後で紙の落ちる音がした。黒い印は元の壁に戻っている。三人とも触れていない。森戸さんはようやく、妹が最後まで歩かせようとしているのかもしれないと口にした。

