【フィクション・投資に関する注意】
本作は架空の小説です。人物、企業、商品、学校、サービス、出来事などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。本作は特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。投資には元本割れなどのリスクがあります。実際の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
『放課後、数字の向こう側。』全30話中 第13話
高校二年生の相沢澪が、身近な出来事を入り口に、投資と経済の仕組みを一つずつ確かめていく連載です。
前話まで
澪は費用と利益、複利、サンクコスト、株主の権利、借入と手元資金、為替、分散、債券、手数料、物価、需要と供給、配当と内部留保を身近な出来事から確かめてきた。
第13話
六時間目の経済で、机に二社分の資料と色鉛筆が広がった。課題は、架空の文具会社「北星ペン」と「つばめノート」のどちらを長期投資先に選ぶか、班で発表することだった。
「北星で決まりじゃない? 売上が三年で一番伸びてる」
亮太が折れ線グラフを指でなぞる。澪も最初は頷きかけたが、次のページで手を止めた。貸借対照表の商品欄が毎年膨らみ、借入金も増えている。
「売れた数字は増えてる。でも、売れ残ったペンも増えてない?」
机の端に積んだ見本の箱を、澪は北星側へ二つ足した。美咲が損益計算書をめくる。
「利益は出てるよ」
「じゃあ、現金は?」
三人でキャッシュフロー計算書を探す。営業活動の欄は細り、直近の年はわずかなマイナスだった。商品を作って売上にしても、代金の回収や在庫の処分が進まなければ、手元のお金は増えない。借入で補っている可能性もある。
発表用紙の「北星を選ぶ」を、亮太が二重線で消した。
「売上、利益、会社が持つものと返すもの、実際のお金の動き。三枚を重ねないとだめか」
澪は新しい結論を書いた。「情報不足。北星の在庫が売れる見込み、代金の回収時期、借入の条件を要確認」。つばめも安心とは限らないため、同じ項目で比べることにした。
発表直前、亮太が資料を掲げた。「推す会社を決めない発表って、あり?」
「分からないまま決めたふりをするより、調べる場所が見えたほうがいい」
教壇へ向かう三人の手には、結論より一枚多い質問表があった。
人物紹介
相沢澪(あいざわ・みお)
十六歳の高校二年生。身近な違和感を放置できず、分からない数字は自分で確かめたくなる性格。投資経験はない。
亮太(りょうた)
澪のクラスメート。判断が速く、目立つ数字から結論を出しがちだが、根拠が変われば考え直せる。
美咲(みさき)
澪のクラスメート。資料を丁寧に追い、班の議論に別の数字を持ち込む。
