【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第7話
四月下旬。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
森には実があったが、知らないものには触れなかった。礁湖で小さな貝を見つけても、生では食べない。空腹より、判断を誤ることの方が怖い。 漂着した非常食のビスケットを一袋見つけ、六つに割った。今日二つ、明日二つ、予備二つ。小さな欠片を舌でゆっくり溶かすと、家の食卓が胸に押し寄せた。
第7話 火が生まれる
ライターを日に当て、金属部の砂を落とす。乾かした繊維と細枝を組み、風を背中で遮った。五度目の火花で、茶色い繊維が赤く光った。
ひまりは息を細く送り、炎を育てた。太い流木へ移るまで手を止めない。火は暖房で、調理器で、煙の信号で、ひとりではないと思わせる生き物だった。
最初の火花は風に消され、二度目は燃え移る前に指で潰してしまった。焦るほど息が強くなる。ひまりは一度手を止め、火口をもっと細くほぐした。乾いた繊維の上へ、髪の毛ほどの小枝、鉛筆ほどの枝を順に重ねる。
小さな炎が太い枝へ移ったとき、彼女は歓声を上げかけて口を押さえた。燃料を集めなければ、すぐ消える。喜ぶのは後だ。日が落ちて火の輪郭が明るくなると、ひまりはようやく両手をかざした。
火が安定すると、ひまりは手をかざす前に周囲の枯れ葉を遠ざけた。炎がうれしくて近づきすぎそうになる自分を、砂へ引いた円が止めてくれる。枝を一本足すたび、赤い光が小屋の柱を照らした。島へ来て初めて、自分の影が夜の地面に立っていた。
火のそばへ置いた水は、消火用だから飲まないと決めた。喉が渇いても用途を混ぜないよう、容器へ黒い炭で大きな丸を描いた。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
