【フィクション・投資に関する注意】
本作は架空の小説です。人物、企業、商品、学校、出来事などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。本作は特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。投資には元本割れなどのリスクがあります。実際の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
『放課後、数字の向こう側。』全30話中 第3話
高校二年生の相沢澪が、身近な出来事を入り口に、投資と経済の仕組みを一つずつ確かめていく連載です。
前話まで
ヨーグルトの内容量から費用と利益を、祖母の古い計算表から複利と時間の関係を確かめた。
第3話
日曜の午後、澪は商店街のゲームコーナーで足を止めた。透明な箱の中に、星形の小さなクッションがある。妹が好きそうな色だった。
一回百円。アームはクッションの端を持ち上げたが、出口の手前で落とした。
「今ので動いた。次なら取れそう」
二回目、三回目。五百円玉を崩したころ、クッションは最初より出口に近づいていた。澪は財布を開く。残りは六百円。帰りに買う予定だったノートは四百八十円だ。
隣で見ていた同級生の蓮が、「もう使った分と、これから使う分は別じゃない?」と言った。
澪はむっとしたが、スマートフォンのメモに数字を並べた。使った五百円は、続けても帰ってこない。いま選べるのは、残り六百円をゲームに入れるか、ノート代として残すか。クッションが次で取れる確率は分からず、近づいたことも成功を約束しない。
先に払ったお金や時間が惜しくて、やめにくくなることを「サンクコスト」と呼ぶらしい。投資でも、買った値段や費やした調査時間ではなく、今後の見込みと別の使い道を比べる必要がある、と蓮が授業の資料で読んでいた。
澪は百円玉を握ったまま、店員に攻略法を尋ねた。店員は笑って首を振り、「置き直しならできます」とクッションを元の位置へ戻した。出口に近い姿に期待を足していた自分がおかしくなり、澪も笑った。
ゲームはそこで終え、文具店でノートを買った。残った百円で妹への土産は買えない。家に着くと、妹は机の端に置かれた新しいノートを見て、星を三つ描いた。
澪はその一つを青く塗り、ゲーム代五百円と小さく余白に記した。妹が「なにそれ」と覗き込み、澪はページを腕で隠した。
人物紹介
相沢澪(あいざわ・みお)
十六歳の高校二年生。身近な違和感を放置できず、分からない数字は自分で確かめたくなる性格。投資経験はなく、日常の出来事から経済の見方を学び続けている。

