【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第23話
六月。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
電波は見つからなかった。ひまりは送信待ちのメッセージを書いた。「生きています。奈緒さんと二人です。島にいます」。宛先は母だった。 奈緒も家族への文を書いたが、送信ボタンは押さなかった。通信が戻った瞬間の電池を節約するためだ。言葉は端末の中で眠り、ふたりの帰る方向を示していた。
第23話 畑ではない畑
漂着したカボチャの種を、森の縁の土へ植えた。芽が出る保証はない。それでも食べ残しの魚や落ち葉を離れた場所で堆肥にし、水を少しずつ与えた。
数日後、緑の双葉が開いた。収穫より先に、その形が未来だった。ひまりは毎朝「おはよう」と声をかけ、奈緒は植物に敬語なのが面白いと笑った。
種を植えた翌朝、ひまりは何度も土を見に行った。変化はない。奈緒に「一日で出たら怖いよ」と笑われ、ようやく水をやりすぎていたことに気づく。
芽が出るまで、二人は強い日差しを避ける小さな覆いを作った。双葉が開いた日は、食料が増えたというより、予定表に数週間先の欄ができたようだった。ひまりは葉の大きさを指で測り、日付を添えた。
双葉の周りには、小さな虫の足跡が残っていた。二人は薬の代わりに細い枝で囲いを作り、夜だけ布を掛ける。ひまりは守りすぎて日差しまで奪わないよう、朝になると必ず外した。一枚の葉が開く速度に合わせ、世話の仕方も少しずつ変えていった。
芽のそばへ差した細枝に、昨日の高さを刻んだ。朝になると葉先が線を越えていて、目に見えなかった一晩の成長が小さな差になった。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。