【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第22話
六月。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
嵐の漂着物から、小型の折り畳み式ソーラーパネルを見つけた。端子は錆びていたが、奈緒が乾かし、布で丁寧に磨いた。 晴天の午後、モバイルバッテリーの表示が一つ増えた。発電量は小さい。それでもスマホを週に一度起動し、位置情報の取得と通信を試せる。2026年の文明が、太陽一枚ぶんだけ戻ってきた。
第22話 送れないメッセージ
電波は見つからなかった。ひまりは送信待ちのメッセージを書いた。「生きています。奈緒さんと二人です。島にいます」。宛先は母だった。
奈緒も家族への文を書いたが、送信ボタンは押さなかった。通信が戻った瞬間の電池を節約するためだ。言葉は端末の中で眠り、ふたりの帰る方向を示していた。
長い文章を書けば気持ちは収まる。しかし電波が戻った一瞬に送るなら、必要なのは場所と人数と状態だった。奈緒は客室係として使う報告の順番を教えた。
ひまりは文頭を何度も直した。「二名生存。中学生一名、成人女性一名。無人島。けが軽度」。その後に家族への一言を置く。冷たい文章に見えたが、帰るための文章だと思えば送信待ちにできた。
送信用の文章から、ひまりは「助けてください」を一度消した。なくても助けを求めていることは伝わる。その分、島の特徴とけがの状態を入れた。最後にもう一度だけ言葉を戻す。「家族へ、生きています」。奈緒は画面を読み、何も直さず保存ボタンを押した。
送信文の先頭へ位置情報を置き、感情の言葉は最後へ移した。読む時間が一秒しかなくても、生存者の場所だけは残る並びにした。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。