【フィクション・投資に関する注意】
本作は架空の小説です。人物、企業、商品、学校、サービス、出来事などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。本作は特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。投資には元本割れなどのリスクがあります。実際の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
『放課後、数字の向こう側。』全30話中 第12話
高校二年生の相沢澪が、身近な出来事を入り口に、投資と経済の仕組みを一つずつ確かめていく連載です。
前話まで
澪は費用と利益、複利、サンクコスト、株主の権利、借入と手元資金、為替、分散、債券、手数料、物価、需要と供給を身近な出来事から確かめてきた。
第12話
土曜の午後、澪は母に付き添い、地元の調味料会社「青葉ソース」の公開説明会へ行った。母は少額だけ株を持っている。見学通路のガラス越しには、停止中の充填ラインと銀色の殺菌設備が並んでいた。
先月、老朽化した装置の不具合で生産が五日間止まったという。会議室で社長は、今年の利益から支払う一株当たり配当を前年より減らし、その一部を新しい殺菌設備の購入に充てる案を示した。
「利益が出たなら、約束どおり配ってほしい」
前列の株主が声を上げた。別の人は「また止まれば、来年の利益そのものが減る」と言う。社長は、配当額は毎年決まっているものではなく、最終的には株主総会の決議を経ると説明した。
澪は母の資料に描かれた二本の矢印を見た。一方は今の株主へ出ていき、もう一方は会社の中に残る。同じ利益でも、配当なら今受け取れる。内部に残せば設備や運転資金に使えるが、新しい装置が順調に動くとは限らず、需要が落ちれば費用を回収できないかもしれない。
質問の時間、母は「減らした分で故障はどの程度減る見込みですか」と尋ねた。会社側は保守計画と試運転期間を答えたが、売上の回復までは保証できないと付け加えた。
帰り道、母は澪に「配当が少ないのは残念。でも多ければ安心とも言い切れないね」と言った。澪はうなずき、会社に残るお金にも、受け取るお金にも、それぞれ別の不確かさがあると思った。
人物紹介
相沢澪(あいざわ・みお)
十六歳の高校二年生。身近な違和感を放置できず、分からない数字は自分で確かめたくなる性格。投資経験はない。
澪の母
地元企業の株を少額保有する会社員。目先の受取額だけでなく、会社側の説明も確かめようとする。
