【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第32話
八月、再建期。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
新しい家は丘寄りに建てた。床を高くし、屋根の角度を変え、ロープの結び目を増やす。最初の家の失敗が、設計図になった。 入口の板には「新・青葉荘」。ひまりは小さく「耐風型」と付け足した。失ったものをそのまま戻すのではなく、前より少し賢い形にする。それが復旧だった。
第32話 海からの箱
台風後、密閉された緊急用品箱が漂着した。中には毛布、浄水用具、簡易ラジオ、衛生用品、栄養補助食が入っていた。誰かのための箱が、ふたりに届いた。
ラジオは雑音ばかりだったが、夜に一瞬だけ言葉らしい音が混じった。ひまりと奈緒は顔を見合わせる。世界は消えていない。ただ、とても遠いだけだった。
箱は岩の間に挟まり、二人で引いても動かなかった。潮が再び上がる前に、てこの支点を変えながら少しずつ浜へ寄せた。蓋を開けるのは安全な場所へ運んでからにする。
毛布を見たひまりは、頬を押しつけたくなるのを我慢した。中身を乾いた物と湿った物に分け、一覧にする。ラジオのつまみを回すと、雑音が小屋に満ちた。何も聞こえなくても、人が作った音がそこにあることが嬉しかった。
緊急用品箱の底には、濡れて文字のにじんだ説明書が張り付いていた。奈緒は破らないよう一枚ずつ剥がし、読める部分を日に当てる。ひまりは絵から用途を推測し、分からない物には触れなかった。箱を開けた喜びより、正しく使うまでの慎重さが長く続いた。
毛布は一度に二枚とも使わず、一枚を乾いた袋へ戻した。雨で寝床を濡らしたときにも、身体を包める最後の一枚を残しておくためだった。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。
