【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第40話
十月末。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
朝晩が冷え始めた。二人は衣類の重ね方を変え、乾いた繊維を寝床へ追加した。濡れた服のまま眠らず、風を避ける。 夏には邪魔だった毛布が宝物になった。季節は同じ島を別の場所にする。ひまりは月ごとの地図を描き、日陰、水場、風向きの変化を書き込んだ。
第40話 百九十六日目の授業参観
奈緒が「今日は授業参観」と言い、貝殻を家族に見立てて並べた。ひまりは島の水循環について発表し、質問役の奈緒が何度も手を挙げる。
くだらなくて、二人は笑い続けた。家族に見せられない授業だからこそ、丁寧にやった。スマホで三分だけ撮影し、帰ったら本物の家族へ見せると決めた。
授業参観の準備に、ひまりは島の地図を壁へ掛けた。奈緒が家族役の貝殻を整然と並べるので、最前列だけ空けてもらった。そこは母の席だった。
発表中、ひまりはふざけず、水を汚さず集める工夫と台風で失敗した点を説明した。奈緒の質問は本気で、答えられないこともあった。撮影を終えた後、空席の貝殻へ小さく礼をする。帰ったら、続きを本物の家族の前で話すつもりだった。
撮影を止めたあと、ひまりは母の席に置いた貝殻を掌へ載せた。画面の向こうへ届く予定のない授業参観だったが、声に出して説明したことで、島の一年が少し整理された。奈緒は片づけを急がず、質問できなかった家族の分まで静かに地図を見ていた。
撮影した動画の最後に、奈緒は黒板代わりの砂へ花丸を描いた。ひまりは子ども扱いだと笑いながら、その丸が波で消えるまで残しておいた。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。