【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第16話
五月。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
ふたりは三つのルールを決めた。遠出は行き先と帰る時刻を残す。体調の異変を隠さない。大きな決定は相談する。 奈緒は大人だから命令するのではなく、安全の責任を多く引き受けると言った。ひまりにも意見を言う権利がある。島で最初の「社会」は、紙切れに書いた短い約束から始まった。
第16話 二人の家
小屋を広げ、寝床を二つに分けた。中央には濡れ物を干す場所を作り、食料は蓋付き箱へ入れる。火は小屋から離し、消火用の砂と水を置いた。
奈緒が入口に「青葉荘」と書いた板を掛けた。家賃は魚一匹、と笑う。ひまりは遭難後初めて声を出して笑い、その音に自分で驚いた。
寝床を広げると、雨水が流れ込む場所が変わった。二人は屋根だけでなく地面の傾きを見直し、浅い溝を掘った。奈緒が枝を支え、ひまりが結ぶ。作業の速度は一人の倍以上だった。
夜、並んだ寝床の間には道具箱を置いた。近すぎず、声は届く距離。奈緒が「おやすみ」と言い、ひまりも返す。たった四文字のやり取りが新鮮で、暗闇の中で何度も思い出した。
寝床を二つ並べると、小屋の中の動線が狭くなった。夜中に水へ手を伸ばして互いを踏まないよう、容器と道具箱の位置を何度も変える。奈緒が横になり、ひまりが暗い入口から歩いて試した。二人分の暮らしは、広さではなく譲り合える余白を探す作業だった。
夜中、奈緒の寝返りで道具箱が小さく鳴った。ひまりは驚いて目を開けたが、隣から「大丈夫」と聞こえ、初めて笛へ手を伸ばさず眠り直せた。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。

