この話はフィクションです。舞台となる町や施設、人物、出来事は創作です。実在する地域・団体・人物とは関係ありません。
第05話 白紙の回覧板
町内掲示板に、何も印刷されていない回覧板が留められていた。四隅の画びょうだけが新しい。澪が夕方の斜光へ紙を傾けると、表面に筆圧の跡が浮かび、悠斗が鉛筆で慎重にこすった。
『三つ目、紙の印。古い冊子を探せ』。文字は途中で何度も弱くなり、書き手が迷った跡まで残っていた。紙の下部には町立中学校図書室の廃棄印があり、次の場所は学校だとわかった。
掲示板のガラスに二人の後ろ姿が映った。その間に、黒い四角を胸へ抱えた人物が一瞬だけ立つ。振り向いたときには誰もおらず、乾いた路面に濡れた靴跡が一つ、細い路地へ続いていた。
二人は追ったが、靴跡は街灯の下で薄れ、古い暗渠の格子前で消えた。澪は写真を撮りながら、証拠がいつも水に関係していると気づく。埋められた水路が、地上へ染み出しているようだった。
翌朝、回覧板はまた白紙になっていた。掲示板の管理者は紙を交換していない。けれど鉛筆で写し取った文字は澪の調査ノートに残り、怪異と人為の境目を曖昧なままつないでいた。
悠斗は『説明できる部分と、できない部分を分けよう』と言った。澪はそのページに二本の縦線を引き、左へ事実、右へ推測を書く欄を作った。怖さを言葉に分解すると、ほんの少しだけ前へ進めた。

