【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第36話
九月。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
八月の終わり、ひまりは何もしたくない日が増えた。食べ、眠り、働いているのに、心だけが砂へ沈む。奈緒にも同じ日があった。 ふたりは「休む合図」を決めた。言葉にできない日は青い貝殻を入口へ置く。その日は最低限の仕事だけを分け、励ましすぎない。元気でない自分も、ここにいてよかった。
第36話 カボチャ
塩害を免れた蔓に、小さな実が一つ残っていた。九月、両手に乗るほどに育ったカボチャを収穫する。
種は来年のために乾かし、実は煮物と薄焼きにした。甘さに二人とも黙った。植えた日の自分たちから、時間を越えて贈り物が届いたようだった。
カボチャを切る前に、二人は重さを手で比べ、どう食べるか相談した。全部を一度に煮れば楽だが、味を変えた方が気持ちが続く。半分は薄切りにし、残りは種を傷つけないよう開いた。
甘い湯気が立つと、小屋が一瞬だけ台所になった。ひまりは種を洗い、乾燥用の布へ一粒ずつ広げる。「次の畑?」と奈緒が聞く。「帰る前に間に合わなくても」。未来を残すことと、帰ることは矛盾しなかった。
煮えたカボチャを口に入れると、二人ともすぐには話さなかった。甘みは薄かったが、島で育った味だった。ひまりは皮の厚い部分まで削り、種とは別の器へ入れる。奈緒が「おかわり」と差し出した皿へ、同じ大きさになるよう慎重に分けた。
洗った種の中から、傷のないものだけを布の中央へ寄せた。軽い種は風で飛ばないよう端を折り、毎朝向きを変えて均等に乾かした。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。

