【フィクション・投資に関する注意】
本作は架空の小説です。人物、企業、商品、学校、サービス、出来事などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。本作は特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。投資には元本割れなどのリスクがあります。実際の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
『放課後、数字の向こう側。』全30話中 第11話
高校二年生の相沢澪が、身近な出来事を入り口に、投資と経済の仕組みを一つずつ確かめていく連載です。
前話まで
澪は費用と利益、複利、サンクコスト、株主の権利、借入と手元資金、為替、分散、債券、手数料、物価と購買力を身近な出来事から確かめてきた。
第11話
金曜の夕方、澪は同級生の紗季と青葉市民ホールへ急いだ。地元の高校生バンド「月面ソーダ」の公演は完売。抽選に外れた紗季は、入口脇でスマートフォンを握りしめていた。
「今夜で活動休止なんだって。どうしても聴きたい」
画面には、定価の三倍近い金額を示す転売の出品が一枚だけ残っていた。開演まで二十分。閲覧人数を示す印が増えるたび、紗季の指が購入ボタンへ近づく。
「その席が急に三倍よくなったわけじゃないよね」
澪が言うと、紗季は唇をかんだ。欲しい人が多いのに席は増えない。しかも今夜を逃せば次がない。その少なさと焦りが、売り手の強気な値段を支えているように見えた。けれど高い表示は、音楽の大切さを測った数字でも、払うべき正解でもない。
その時、ロビーの案内モニターに新しい通知の印が点灯した。舞台機材の配置が決まり、見切れ席を十二席だけ公式に追加するという。係員が窓口を開けると列ができ、同時に転売画面の出品額が次々と下がった。わずかな供給が増えただけで、さっきまで動かなかった値段が揺れる。
紗季は高額な出品を閉じ、公式窓口の列へ並んだ。十二人目には入れず、二人の前で完売した。
「悔しい。でも、焦ってあの額を払わなくてよかった」
二人はホール横の広場へ回った。扉が開くたび、最後の曲の低音が夜気へ漏れてくる。紗季は公式配信の後日公開を確かめ、スマートフォンをしまった。
帰りのバスが来るまで、二人は聞こえた旋律を小さく口ずさんだ。
人物紹介
相沢澪(あいざわ・みお)
十六歳の高校二年生。身近な違和感を放置できず、分からない数字は自分で確かめたくなる性格。投資経験はない。
紗季(さき)
澪と同い年の友人。好きな音楽には一直線だが、今回は澪と一緒に焦りから距離を置く。
