この話はフィクションです。舞台となる町や施設、人物、出来事は創作です。実在する地域・団体・人物とは関係ありません。
第13話 地下通路の足音
駅裏の地下通路は、昼でも蛍光灯が二本切れていた。十八時十二分、澪と悠斗が入口から歩数を数えると、二人分の靴音に半拍遅れて、三人目の足音がついてきた。止まれば止まり、振り返れば消える。
録音を聞いた悠斗は、反響で説明できると言った。壁と天井の継ぎ目が音を遅らせている。しかし三人目の足音だけ、二十五歩目で右側へ逸れた。そこには板で塞がれた古い排水路の入口があった。
板の隙間から、破られた提案書の一部が見つかった。『地下通路入口の照明を増やすこと』。紙の裏には五人分の署名欄があり、沙耶の名だけが書かれ、ほかは空白だった。
通路の管理記録を確認すると、二十五年前にも照明改善の要望が出ていたが、正式な提出者が不明で保留になっていた。声が届かなかったのではない。届く形になる直前で止まっていたのだ。
帰ろうとしたとき、非常灯が一瞬消えた。完全な暗闇のなかで、澪は背後から『最後まで』という少女の声を聞いた。明かりが戻ると、悠斗は何も聞いていないと言い、代わりに録音機の表示が二十五秒進んでいた。
澪は怖さを隠さず、調査ノートへそのまま書いた。説明できた反響と、説明できない声を同じページに残す。怖いという感覚も、暗い場所が人へ与える影響を示す記録なのだとわかり始めていた。

