【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第43話
十一月。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
十一月の朝、丘でスマホが一瞬だけ震えた。時刻の自動補正。電波表示はすぐ消えたが、通信網に触れた証拠だった。 ひまりは保存していた短いメッセージを送信待ちにし、位置情報と二人の名前を最初に置いた。長い思いより、救助に必要な一行を優先する。送信表示は回り続けた。
第43話 既読のない希望
メッセージは送れたのか分からなかった。電池は減り、画面は沈黙した。期待するほど、失敗したときが怖い。
奈緒は「届いた前提にも、届かなかった前提にも寄りかからない」と言った。いつも通り水を集め、旗を直し、食料を確保する。希望は仕事をやめる理由ではなかった。
翌朝、送信済みの印は見つからなかった。ひまりは何度も画面を開こうとし、そのたび手を止めた。奈緒は「届かなかった」とも「届いた」とも言わない。
二人はいつもの水運びへ出た。途中でひまりが立ち止まり、「期待していいのかな」と聞く。奈緒は「期待していい。でも今日の水もいる」と答えた。容器の重さは変わらない。その当たり前が、揺れる心を島の一日へ戻した。
水場から戻る途中、ひまりは何度も丘の方を振り返った。通信が届いていれば、すでに誰かが動いているかもしれない。そう考えるたび歩幅が速くなる。奈緒が容器の水面を指すと、揺れでこぼれかけていた。ひまりは速度を落とし、まず今日の水を小屋へ運んだ。
送信済みの印がなくても、待機中の文章は消さなかった。電波が戻った瞬間に新しく入力せず、そのまま送れる状態を保った。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。

