【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第1話
四月、漂着直後。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
第1話 圏外
2026年4月18日。修学旅行先へ向かう小型連絡船が突風にあおられた。救命胴衣を着けたひまりが目を開けると、頬の下に熱い砂があった。海には白い破片が浮かび、船も友達も見えない。
スマートフォンは防水ケースの中で生きていた。しかし画面の右上には「圏外」。ひまりは泣きながら119を押し、つながらないことを三度確かめた。電池は38パーセント。時刻と写真とメモだけが、文明の残りだった。
立ち上がろうとすると、右足首に鈍い痛みが走った。骨が折れた感じではない。ひまりは砂へ座り直し、制服の裾をめくって腫れを確かめた。砂浜には、救命胴衣の笛、片方だけのスニーカー、白い発泡材が散っている。名前を呼んでも、返るのは波だけだった。
日が傾く前に、彼女は流れ着いた板へ石で日付を刻んだ。四月十八日。ここから数えなくなったら、本当に世界から消えてしまう気がした。スマートフォンを胸へ押し当て、母の顔を思い浮かべる。「まだ帰れないだけ」。声にすると、ほんの少し立てた。
立ち上がる前に、ひまりは両手の指を一本ずつ動かした。右足首は痛んだが、膝と腰には力が入る。制服のポケットから濡れたハンカチを出し、額の砂を拭った。自分の身体がどこまで動くのか、それが島で最初に確かめられる範囲だった。
波打ち際へ近づくと、オレンジ色の救命胴衣が一つ裏返っていた。ひまりは走りかけ、足首の痛みで止まる。長い枝を使って引き寄せたが、中には誰もいなかった。安堵してよいのか悲しんでよいのか分からず、笛だけを外して首へ掛けた。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。

