この話はフィクションです。舞台となる町や施設、人物、出来事は創作です。実在する地域・団体・人物とは関係ありません。
第25話 夕闇ノートの最後のページ
数日後の放課後、澪と悠斗は黒いノートを欅坂駅へ持っていった。最初に見つけたベンチは、今度は人の流れから切り離されて見えなかった。誰かが座り、立ち、また空く、ごく普通の場所だった。
二人は最後のページへ交代で書いた。『怖いと思った場所を、ちゃんと見てください。見たことは、誰かに伝えてください。返事が来るまで、記録を残してください』。最初の文より、二人が学んだぶんだけ長くなった。
悠斗は、また誰かを勝手に巻き込むことになると言った。澪も同じことを考えていた。だからノートをベンチへ置くのではなく、藤崎先生と相談し、学校の資料室へ収めることに決めた。
黒いノートを怪異の呼び水として町へ放つのではなく、経緯を添えて誰でも読める記録にする。それが森戸さんの方法を繰り返さず、沙耶の願いを閉じ込めない終わらせ方だった。
駅を離れようとしたとき、風がないのにページが一枚めくれた。白紙の中央へ細い水路の線が浮かび、町の北側で小さく枝分かれして消える。二人の調査にはなかった場所だった。
澪はすぐ追いかけなかった。線を撮り、時刻と天気を記録し、悠斗と顔を見合わせる。怖さは消えていない。それでも今は、怖さの次に何をすべきか知っている。
夕闇のなかで駅前の灯りが順にともった。暗さは、何かを隠すだけではない。見落としていたものの輪郭を、こちらが目を凝らすまで静かに守っていることもある。澪は調査ノートの新しいページを開いた。
