【フィクション・投資に関する注意】
本作は架空の小説です。人物、企業、商品、学校、サービス、出来事などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。本作は特定の金融商品や投資手法、収集品の売買や投機を推奨するものではありません。投資や売買には元本割れ、価格変動、流動性などのリスクがあります。実際の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
『放課後、数字の向こう側。』全30話中 第14話
高校二年生の相沢澪が、身近な出来事を入り口に、投資と経済の仕組みを一つずつ確かめていく連載です。
前話まで
澪は費用と利益、複利、サンクコスト、株主の権利、借入と手元資金、為替、分散、債券、手数料、物価、需要と供給、配当と内部留保、財務諸表の読み合わせを身近な出来事から確かめてきた。
第14話
金曜の夕方、澪は亮太と架空のプロ野球チーム「東都コメッツ」の試合へ来ていた。球場のコンコースから照明に浮かぶグラウンドを見下ろすと、売店前では新人・真田投手のカードが話題になっていた。
一週間前から「次の試合で初先発らしい」という噂が広まり、取引サイトの価格は三倍近くまで上がっている。亮太はスマートフォンを見せた。
「先発が発表された。ほら、また上がった。今買わないと」
購入ボタンへ伸びた指を、澪の声が止めた。
「発表で、真田選手自身の何が変わったの?」
「先発することが確定した」
「投げる力が急に三倍になったわけじゃないよね。噂の間に、買う人の期待が先に膨らんだのかも」
真田は六回を二失点。十分に試合を作ったが、奪三振の山も完封もなかった。試合終了後、カード価格は発表前より下へ落ちた。悪い登板ではない。それでも、画面の線は歓声と反対に沈んでいく。
「好材料が出たのに、なんで」
「みんながもっとすごい結果まで想像して、その値段で買っていたなら、普通に良かっただけでは足りないのかも」
二人はベンチで、左に「選手について変わったこと」、右に「買う人の予想が変わったこと」とメモした。実力や将来の価値を正確に表す物差しと、その瞬間の取引価格は同じではない。
亮太は購入画面を閉じた。
「今日はやめる。下がった今が得、とも決めつけない」
真田が次に活躍するか、カードが上がるか下がるかは、まだ誰にも分からない。二人はスマートフォンをしまい、選手たちが整列するグラウンドへ目を戻した。
人物紹介
相沢澪(あいざわ・みお)
十六歳の高校二年生。身近な違和感を放置できず、分からない数字は自分で確かめたくなる性格。投資経験はない。
亮太(りょうた)
澪のクラスメート。判断が速く、目立つ数字から結論を出しがちだが、根拠が変われば考え直せる。
