【フィクション・投資に関する注意】
本作は架空の小説です。人物、企業、商品、学校、出来事などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。本作は特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。投資には元本割れなどのリスクがあります。借入には利息や返済義務が伴います。実際の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
『放課後、数字の向こう側。』全30話中 第5話
高校二年生の相沢澪が、身近な出来事を入り口に、投資と経済の仕組みを一つずつ確かめていく連載です。
前話まで
ヨーグルトの内容量から費用と利益を、祖母の古い計算表から複利と時間を、ゲーム代からサンクコストを、母の議決権行使書から株式を持つ意味を確かめた。
第5話
土曜の昼前、商店街のカフェ「木窓」で手伝いをしていた澪は、冷蔵庫の警告音に振り返った。庫内の灯りはつくのに、牛乳も生クリームもぬるい。奥の冷凍庫では、仕込んだタルト生地の縁が柔らかくなり始めていた。
店主の久保田は食材を保冷箱へ移し、修理業者に電話した。古い機種で部品がなく、入れ替えの見積もりは四十八万円。今日発注すれば月曜には届くという。
「払えない額じゃない。でも現金で払うと、来週の豆や小麦粉、それに給料日の分が薄くなる」
久保田は通帳の残高を隠すように伏せ、代わりに二枚の紙をカウンターへ置いた。一枚は現金払い、もう一枚は短期の事業用借入を使った場合の返済予定だった。借りれば、元の四十八万円に利息と手数料が加わる。
澪は電卓を押した。「冷蔵庫の値段が、借りると高くなるんですね」
「時間を買う代金、とも言えるかな。ただ、売上が予想より少なくても返済日は来る」
全額を現金で払う案は総額が小さい。借りる案は支払いが後へ分かれ、仕入れ用の現金を手元に残せる。その代わり、金利が上がれば条件によって負担が増えることもあり、毎月の返済が店の余裕を削る。どちらの紙にも、違う窮屈さがあった。
「半分だけ現金にするのは?」と澪が聞くと、久保田は業者へ頭金を変えられるか確認した。返事を待つ間にも、保冷箱の氷は解けていく。二人は今日出せないケーキを黒板から消し、傷みやすい食材を近所の店に預かってもらった。
電話を切った久保田は、月々の返済額と月曜までに必要な仕入れ額をもう一度並べた。澪は新しい氷を抱えて戻り、濡れた見積書の端を布巾でそっと押さえた。
人物紹介
相沢澪(あいざわ・みお)
十六歳の高校二年生。身近な違和感を放置できず、分からない数字は自分で確かめたくなる性格。週末に近所のカフェを手伝うことがあり、投資経験はない。

