【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第30話
台風通過直後。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
七月、海と空の色が変わった。これまでより大きな台風が来る。ふたりは海辺の小屋を捨て、アンテナ丘の風下にある浅い岩窪みへ避難場所を作った。 必要品だけを持ち込み、入口を塞ぎすぎず、排水路を確保した。轟音の中、ひまりは奈緒の手を握った。静かな時間が突然訪れ、また風が反対から吹いた。台風の目だった。
第30話 失った家
青葉荘は跡形もなかった。水の容器も半分が流され、畑は塩水をかぶった。ひまりは立ち尽くし、奈緒は「今日は数えるだけでいい」と言った。
残った物、壊れた物、探す物。三つに分けて記録する。悲しむのも作業の一つにした。夕方、ふたりは岩窪みで火を囲み、家の思い出を一つずつ話した。
風が止んだ朝、浜の形まで変わっていた。ひまりは小屋のあった場所で、入口の板だけを見つけた。泥を拭うと「青葉荘」の文字が残っていた。
奈緒はすぐ再建を言い出さず、飲める水と乾いた物だけを数えた。ひまりは泣きながら一覧を書いた。夕方、板を岩窪みへ持ち帰る。家は消えても、二人が覚えた作り方までは流されていなかった。
泥の中から見つけた入口板を洗うと、文字の溝に砂が残った。ひまりは爪で掻き出そうとし、奈緒に手を止められる。傷つけなくても、乾けば落とせる。二人は板を日の当たる岩へ立てかけ、失った物の一覧ではなく、残った物の最初にその名前を書いた。
残った水を二つの容器へ分け、一方を倒しても全部失わないようにした。失った直後だからこそ、同じ場所へまとめる怖さがよく分かった。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。
