【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第6話
四月下旬。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
朝、ひまりは高みに登った。島は歩いて回れそうな大きさで、中央に低い森、南に礁湖、北に切り立った岩場がある。遠くに陸影はなかった。 地図アプリは地図を読み込めない。それでも写真を撮り、目印に番号を付けた。浜を「はじまり浜」、丘を「アンテナ丘」と名付ける。名前を付けると、恐ろしい場所が少しだけ地図になった。
第6話 食べられるもの、食べないもの
森には実があったが、知らないものには触れなかった。礁湖で小さな貝を見つけても、生では食べない。空腹より、判断を誤ることの方が怖い。
漂着した非常食のビスケットを一袋見つけ、六つに割った。今日二つ、明日二つ、予備二つ。小さな欠片を舌でゆっくり溶かすと、家の食卓が胸に押し寄せた。
ビスケットの袋を開ける前に、ひまりは匂いと包装の傷を確かめた。角が濡れていた一袋は食べずに残す。空腹のときほど、都合よく安全だと思い込みそうになる。
森で見つけた赤い実は、写真だけ撮って離れた。帰宅したら検索すれば一秒で名前が出るのに、今はその一秒がない。知らないものを「食べない」と決めるのも、立派な選択だ。夜、ビスケットの欠片を舐めながら、給食の残りを嫌がっていた自分を思い出した。
赤い実の枝には、鳥がついばんだ跡があった。それでも、ひまりは安全の証拠にはしなかった。人と鳥では食べられるものが違うかもしれない。写真を撮り、葉の形と幹の模様だけをメモする。空腹は答えを急がせたが、「分からない」を残す方を選んだ。
非常食の袋を閉じるとき、残りの枚数を指で確かめた。知らない実を諦めた分、確実に食べられる一枚の価値が昨日より重くなっていた。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
