【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第13話
五月、奈緒との合流日。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
島の西側を調べた帰り、砂に自分より大きな足跡を見つけた。新しい。裸足ではなく、靴底の模様がある。 恐怖と期待が同時に込み上げた。ひまりは火のついた枝を持ち、「誰かいますか」と叫んだ。返事はなく、足跡は岬の向こうへ続いていた。
第13話 もう一人
岬の先で、オレンジ色の布が振られた。「待って、こっち!」。声の主は二十七歳の篠崎奈緒だった。船の客室係で、別の救命いかだに乗った後、島の反対側へ流れ着いたという。
ひまりは走り、途中で転び、それでも立った。奈緒も泣いていた。ふたりは触れていいか確かめてから抱き合った。人の体温は、火よりも強く「助かった」と思わせた。
奈緒は右手に布を巻き、歩くたび左足を少しかばっていた。ひまりは抱き合ったあとでそのことに気づき、すぐ水を渡した。奈緒も一気に飲まず、口を湿らせてから小さく笑った。
二人は互いの名前、事故後に見たもの、持ち物、けがを順番に確認した。質問が途切れると、また泣きそうになる。「先に安全な場所へ行こう」と奈緒が言い、ひまりが道を案内した。自分の後ろに足音がある。それだけで、同じ森の暗さが違って見えた。
青葉荘へ向かう途中、奈緒は何度も「本当に一人で作ったの」と尋ねた。ひまりはうなずきながら、失敗した屋根や消えた火の話まで一気にした。言葉が次々あふれ、自分がこれほど誰かに説明したかったのだと気づく。奈緒の足音は、最後まで後ろから消えなかった。
小屋へ着くと、奈緒は入口板の文字をゆっくり読んだ。「青葉荘、いい名前だね」。初めて他人の声で呼ばれた家の名に、ひまりは照れて視線をそらした。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。
篠崎奈緒
二十七歳の船客室係。島の反対側で生き延び、第13話でひまりと合流する。応急手当と乗客対応の経験を生かして安全を支えるが、一方的に命令せず、ひまりの意見と成長を尊重する。
