【フィクション】本作は架空の小説です。人物、島、船舶、企業、事故、地名、救助活動などはすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。作中の行動は物語上の描写です。実際の災害時には、公的機関の指示と専門的な安全情報を優先してください。
「青の余白で、生きている。」全50話中 第12話
五月初め。海難事故で無人島へ流れ着いた中学生・水城ひまりが、水、食料、住居、衣類、通信手段を確保しながら、救出までの一年を生き抜く現代サバイバル連載です。
前話まで
浜のSOSは流木だけでは空から見えにくい。白い砂の上に黒い石を並べ、三文字を太くした。そばには煙を上げるための生葉をまとめて置く。 飛行機の音がした気がして火へ葉を投げたが、空は空のままだった。煙だけが青へ溶ける。失敗ではない。次にすぐ動ける練習だった、とひまりは自分に言った。
第12話 足跡
島の西側を調べた帰り、砂に自分より大きな足跡を見つけた。新しい。裸足ではなく、靴底の模様がある。
恐怖と期待が同時に込み上げた。ひまりは火のついた枝を持ち、「誰かいますか」と叫んだ。返事はなく、足跡は岬の向こうへ続いていた。
足跡の縁はまだ崩れておらず、朝の風より新しいように見えた。ひまりは自分の靴底を横へ押しつける。模様も大きさも違う。胸が早鐘を打った。
すぐ追いたい気持ちを抑え、小屋へ戻って水と笛と火種を用意した。地面に矢印を残し、正午までに戻れなければ引き返すとメモへ書く。相手が助かった人とは限らないという怖さもあった。それでも島へ来て初めて、明日が誰かにつながるかもしれなかった。
大きな靴跡のそばには、折れてまだ青い小枝が落ちていた。ひまりは拾わず、その位置を写真に残した。足跡の先は森の暗がりへ続いている。呼びかけたい気持ちを飲み込み、まず来た道へ新しい矢印を刻む。期待で帰路を失わないことを、自分へ言い聞かせた。
その夜、ひまりは笛を枕元ではなく首へ掛けたまま眠った。森の向こうにいるかもしれない誰かへ、すぐ返事ができるようにするためだった。
人物紹介
水城ひまり
物語開始時は十四歳の中学生。観察したことを写真やメモに残す習慣があり、限られた道具を工夫して使う。不安や失敗を隠すのではなく、次の判断材料へ変えながら成長していく。

